めったに行政のことは語らないのですが、ビジネスにおいても、とても重要な示唆があると思いましたので、このテーマでブログを書きます。
DX (デジタル・トランスフォーメーション)とは、デジタル・ビジネス・トランスフォーメーションのことで、デジタルを使って、ビジネスをトランスフォーム(変質・変形・変身・変革)させることです。
ビジネスを変革させる大きな「目的」に、競争優位性の確保があり、そのための重要な方策として、顧客ニーズを競合先より先に見つけて叶えることが挙げられます。
競合に先立つためには、顧客自身が気づいていないニーズや、無意識に諦めているニーズを見つけて叶えることが結果的には近道になります。そのための手法の核になるのが、「CX : 顧客経験価値」の考え方です。CXや、昔から提唱されてきた、HCD(人間中心デザイン)、モノからコト、UX、デザイン思考、大きくは全て同じ話で、顧客が経験されることを、素直な態度で丁寧に見聞きし共感することで、深いニーズまで汲み取ろうとする手法や考え方です。
(先に、マイナンバーカードとの関係でいうと、パンデミックや天災の際の、マイナンバーカードによる給付金即時振り込みというニーズは、コロナ前では、殆どの人にとっては無意識のニーズでした。)
DXに話を戻しつつ、整理をすると、DXとは、「デジタルを使って、自社ビジネスを顧客の経験価値を高められるビジネスに変革すること」となります。ということは、たくさんデジタル投資をしたが、お客さまの経験価値は高められなかったというのは、明らかにDXではありません。経験価値を高めるどころか、待ち時間が長くなるなど、満足度すら大きく下げるケースも多くあり、もはやDXどころか、デジタル投資をしたのに効率化すら出来ていない状況もあります。(何て呼ぶのでしょうか…DC デジタル・カオスでしょうか? )
マイナンバーカードで、特別定額給付金の申請をしたが、各自治体で再度プリントアウトして照合するため、アナログ申請よりも人手も日数も要するとか、役所受付がパンクするので、オンラインの申請自体を休止した、など、びっくりするような事態になったのは、ご存じの通りです。
日経新聞でも、このマイナンバーカードの問題は、自治体任せのつぎはぎ行政と、「利用者目線」欠如の制度設計が原因と書かれていますが(2020/7/7付日本経済新聞)、イギリス、ドイツ、北欧など、行政の電子化が進んでいる国では、何年も前から、先に書いた、CX(顧客経験価値)を高めるためのDXが、しっかりと進められてきたため、今回の日本のような事は起こらず、数日レベルで給付金の振り込みがなされています。
「利用者目線」の制度設計は、言葉で言うほど、簡単ではありませんが、デザイン思考などの「考え方」と「各種手法」をきちんと学んで、利用者に感情移入する調査を経て、経験価値を高める施策の設計と実行を行えば、日本の技術力を以てすれば実現可能な話です。(これらの手法では、縦割り、サイロなどの回避策も盛り込まれています。)
今回、世界の主要国に比べて特別定額給付金の支給が大幅に遅れたことに対して、行政が痛烈に頭を打って、「利用者目線」への世間の関心も一層高まり、CXを高めるDXを実現するにはどうすれば良いか?ということへの真剣な取り組みが開始されることを願ってやみません。