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日本の患者中心医療はどのような変遷をたどってきたか vol.5

DCDブログでは、コンサルタントの山崎博史氏による、ヘルスケアに関する連載を定期的にお届けしています。本日はその5回目をお送りします。(尚、当内容は、弊社グループ会社のmctでも掲載中です。)

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最近、patient engagementというキーワードをよく聞くようになりました。海外のHealthcare関連の記事などには頻繁に出てきます。ただ、日本ではまだ定着していないのが現状ですが、これからはこのキーワードは非常に大切になって来るでしょう。その前に、「患者」にまつわるキーワードはどのような変遷をたどっているのでしょうか?私なりに解釈して見たいと思います。

目次

    患者中心の医療

    もう20年以上前に盛んに言われていたキーワードです。一言で表すと、円の中心に患者を置いて、その周りに医療者が取り囲み、情報共有することで患者を治療するというスタイルです。ただし、これは医療提供者側から見た「患者中心」になっていたようで、本来の患者中心とは言えないのが現実です。

    例えば、患者は医師、看護師、臨床検査技師など多くの医療従事者と会うことになります。思い出して見ていただければわかると思いますが、あなたが、病院にかかった時、医師の診察の前に看護師による検査(血圧や尿検査など)があり、それから診察室で医師の診断を受けます。医師は「では、レントゲンを撮って見ましょう。それから採血も行なってください。」と言います。あなたは廊下をレントゲン室まで歩いて書類を窓口に渡してレントゲンを撮ってもらいます。次にまた廊下を歩いて採血室へ行って、窓口で書類を渡して採血をしてもらい、診察室の前に戻ります。その後、医師の判断があり、窓口で支払いを済ませた後、薬局へ出向いて薬をもらいます。

    このように患者がラインのように流れています。この例は外来の場合ですが、入院の場合はどうでしょうか?その人の症状にもよりますが、多くの場合は各医療従事者は自分の範疇の仕事をこなすだけです。つまり包括的に患者を知っているのは、医師だけになります。これは実に危険な要因をはらんでいます。昨年、名古屋で主治医が他の医師が診察した時のアラートを見逃して医療事故に繋がったことがありました。このように医療者が患者の情報を共有しようとしてもマンパワー的に限界が来ていることが露見しているのです。 

    informed consent

    インフォームド・コンセントは医師が患者に十分な情報を提供して、その結果患者自身が自分の良いと思う治療法を選択することです。それ以前は、医療関係者と患者には医療の知識に対する差がありました。インターネットが普及したりしたことによって、患者も自分で自身の疾病を勉強するようになり、曲がりなりにも医師の話す内容が理解できるようになって来ました。時に癌に関して患者は積極的に勉強するようです。手術の前には手術内容などを詳しく説明されて同意書に判子を押すようになりました。 

    コンプライアンス

    一般的には企業の法令遵守です。医療の場合は医師の指示通りに薬を飲む、決められた時間に血圧を測るなど、医師の指示の遵守といってもいいかもしれません。これもインフォームド・コンセントが一般的になって、なぜそれをやらなければならないのか理解が進んできました。

    patient experience

    この言葉は的確な日本語がないようです。あえて、言えば「患者満足度」が当てはまります。元々はuser experienceから派生している言葉なのでこのブログを読まれている方々には馴染みのあるものでしょう。元々は1980年代に海外で患者の側面から医療の質をどう評価するのかの研究から発展して来ました。今まで医療者中心の目線であったものが患者自身も病気に対する理解度が上がりお互いの意思が通い合えるようになったからこそ、医療者側も患者側の目線で考えることができるようになったのかもしれません。patient experienceは今でも様々に議論されています。例えば、最近、アメリカの医療機関でwaiting room(待合室)をLoungeに名称変更することで「その場所」の機能がガラッと変わったという事例があります。

    patient engagement

    engagementはマーケティングの方々の専門用語ですね。ユーザーがどの程度積極的に関与しているのかを判断する重要な指標になっています。特に医療に場合は患者自身が治療にどれだけ積極的に関与するかを表します。patient engagementを語る時に大事なのはIoTの出現です。特にiPhoneに代表されるスマホです。スマホのアプリには、様々な医療機器と連携して血圧、心拍数、睡眠状態など調べられるものがあります。これらのおかげで普段気にする事の少なかった体の変化を知れるようになり、「おや、ちょっと血圧が高めだな、塩分を控えなければ」、「体重が増えたな、野菜をもっと取ろう」などと気付き、努力する事ができます。そして、改善しなければ受診してスマホのグラフなどを医師に示して治療を受けるようになります。つまり、治療しなければならない状態になる前に自身で改善したり、たとえ治療が必要となっても日々の記録を取りながら医師とのコミュニケーションを図ったりできるのが顕著な例です。今後様々なデバイスがユーザー(または患者)に使用されることになりengagementは重要になってくるでしょう。 

    いわゆる「患者中心の医療」から「patient engagement」まで見てみると、患者自身のかわかり方が深くなって来ていることがわかります。ただし、キーワードが変わって来ているのではなく全てのキーワードが積み重なって来ていることが重要なんでしょうね。 

    ■6/23掲載

    小売業の視点で医療機関を見てみると・・・「ヘルスケアビジネスをリフレームする」vol.1

    ■6/28掲載

    見えているのに見ようとしない医療と健康の分断「ヘルスケアビジネスをリフレームする」vol.2

    ■7/3掲載

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    ■8/4掲載

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    山崎博史氏 プロフィール


    大阪府出身。関西大学商学部卒業。某国内製薬メーカーでMR、営業企画部、情報システム統括部、マーケテイング部を経験。その後、ベンチャー企業に転職、企業のインターネットマーケティングのコンサルティング、セミナーなどを行う。また、大学病院、クリニック、医師会などでコンサルティングを行っている。海外の投資企業への国内の医療産業に関するコンサルティングも行っている。<経歴の詳細はこちら>

    twitter : @gennesaretcare

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