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海外のヘルスケアエクスペリエンスは院外に拡張している vol.4

DCDブログでは、コンサルタントの山崎博史氏による、ヘルスケアに関する連載を定期的にお届けしています。本日はその4回目をお送りします。(尚、当内容は、弊社グループ会社のmctでも掲載中です。)

アクセンチュアの最新のレポートによると、テクノロジー企業の85%とベンチャーキャピタル(VC)企業の77%が、医療の破壊的イノベーションを最優先課題の1つと考えているようです。私たちの周りには多くのビジネスチャンスがあり、すべての企業がこのビジネスチャンスを生かして企業業績をより良いものにしようとしています。どこにブルーオーシャンが在り、自分たちの強みを生かせるかを考えていることと思います。ウェアラブルやセンサーの普及はすでに医療業界において影響力を持ちつつあり、医療用IoT市場は2020年には1,700億ドルと見積もられています。またHIMSSは2019年には87%の医療機関が何らかのIoT機器の導入をしているとレポートを出しています。その中でよく出てくるキーワードがpatient experienceです。なぜ今このキーワードが注目されているかを考えてみましょう。

前回、「ICT」という言葉に違和感を感じる話をしましたが、現在、医療機関のIT化は医療機関内のIT化、また、介護の世界では介護従事者と医療従事者との連携のシステム化などが論じられています。これは提供者側のシステム化に他なりません。民間企業なら20世紀には企業内システム化は導入済みです。言葉を変えると、IT化をしないと競争に負けてしまい、生き残っていないからです。一方、医療の世界ではほぼ競争が行われず無理にIT化をしてもその投資に見合うだけの見返りが期待できませんでした。ところが、ここにきて院内のシステム化がほぼ一巡し、いよいよ院外のシステム化が始まろうとしているわけです。おそらく他の産業から20年以上は遅れており、まさに未開拓の市場であり、IT企業や投資家がこの耕されていない土地に一獲千金を狙ってきているわけです。特にアメリカでは、医療機関もサービス産業の一つです。一般の企業がどこの保険サービスと契約するかは、他の産業と同様に魅力的なサービスを提示できるかにかかってきています。では実際に世の中でどのようなことが起こっているかご紹介しましょう。

まず最初にご紹介するのはMicrosoft社の「Health Future Vision」です。

https://youtu.be/C4LbAUa4ZwY

この動画が発表された時はまだiPhoneが発表される前だったと記憶しています。これを見て、いつかはこういう世界になるのだろうかと思ったものです。が、今見返してみると、ほぼ実現されつつあることに驚きを隠せません。

次にご紹介するのは英国のSense.lyです。

英国のNHS(国民保健サービス)は相当な財政危機に陥っています。ご存知のように英国ではかかりつけ医が決まっており、そこで受診する限り医療費は原則無料です。日本でも以前高齢者の医療費が無料だった頃に差し迫った疾病がないにもかかわらず医療機関を受診する人が多く、医療費を圧迫してきました。同様のことが英国でも起こっています。Sense.ly社はアメリカの企業ですが、Sensely appとNHSgが共同で実証実験をしているのがこのサービスです。NHS(国民保健サービス)によりトライアルされている sense.lyは自然な会話で患者とドクターを結ぶバーチャル・ナースです。名前はoliviaです。彼女は365日、24時間患者に対応することができます。 

特徴として 

1 症状をチェックして、必要なら人間の看護師に連絡する

2 薬の管理と処方指導 

3 心不全、糖尿病、喘息、COPDなどの慢性疾患の管理 

4 自己ケアの指導 

5 診察のスケジューリング 

6 薬局へ行くためのアクセス方法の案内や他の医療機関(眼科や歯科など)への紹介 

この導入によって無駄に999にコールすることなく、医療費を削減できるのではないかと期待されています。

次にご紹介するのはmycahealth社です。この企業もiPhoneが登場する前からBlackBerryなどで医師と患者がtelemedicineができるシステムを提供してきていました。この動画は、ユーザーが時間的ロスを如何に減らすことができるかを面白おかしく紹介しています。

https://youtu.be/vH9cwKKEpaQ?list=LLEh4yGTkquW5HBFMnujOVgw

アメリカでは日本のように好きな医療機関にかかることができず、契約している指定された医療機関を受診しなければなりません。当然、このような時間的ロスが発生します。この動画をみた経営者は、当然従業員の生産性の問題からこのようなtelemedicineを提供している医療機関と提携したいと考えるでしょう。

そしてこのmycahealth社のシステムを導入している企業がQualcomm社のHealth Centerです。

https://youtu.be/Dve4eZLynig?list=LLEh4yGTkquW5HBFMnujOVgw

Qualcommの従業員は診察室に行かなくてもネットでいつでも繋がることができるようになっています。

アメリカのような国土の広い国では、患者が適切な医師に診察してもらうことは地理的に難しいことで、patient experienceが非常に低くなっています。これを解決するテクノロジーがtelemedicineです。telemedicineはすでにインドやブラジルなど国土の広い国々で普及し始めています。そこでご紹介するのはMercyです。セントルイスに拠点を置くMercyは200年の歴史を持ち、30病院を配する医療機関です。このMercyが2015年に「Mercy virtual care center」を開設しました。現在のところ世界最大規模のバーチャル病院ということになります。

Mercy virtual care centerには患者はいません。関係している病院や患者の自宅とネットワークで繋がっており、患者の状態を常時見守っています。つまり、必ずしもここ一カ所から診療が行われるのではなく、バーチャル・ケアセンターを核にして、医師と患者を広いネットワークで結ぶという発想です。

さて、まだ実現はしていませんが実に夢のあるプロジェクトが、Xプライズ財団の「Qualcomm Tricorder X PRIZE 」です。

http://tricorder.xprize.org

Xプライズ財団では様々な分野でブレークスルーを起こす挑戦的な課題のコンペを実施しています。「Qualcomm Tricorder X PRIZE 」はその一つです。「Tricorder」とは、アメリカの人気テレビ番組「スタートレック」に出てくる非侵襲性のバイオアナライザーです。非侵襲性のアナライザーは患者にとって負担がなく、多くの科学者がこの実現を夢見ています。今回のコンペでもこのTricorderを目指して行われました。

今回台湾のDynamical Biomarkers Groupが優勝しました。

今回ご紹介する動画はほんの一部です。世界では多くの革新的テクノロジーが生まれつつあります。ただし、ここで注意を要するのは、すべての医療機関がこの先進的なテクノロジーを導入できる体力があるかというとまだまだでしょう。

最後に現実を示す動画をご紹介します。Allscripts社のEHRのシステムです。

現実はまだまだというところでしょうか?

in the future

最後に未来の医療の姿はどうなっているのでしょうか?未来は未来の人に聞いてみましょう。この動画は今年の世界経済フォーラムでPhilipsが紹介した子供たちへのインタビューです。

■6/23掲載

小売業の視点で医療機関を見てみると・・・「ヘルスケアビジネスをリフレームする」vol.1

■6/28掲載

見えているのに見ようとしない医療と健康の分断「ヘルスケアビジネスをリフレームする」vol.2

■6/28掲載

日本の医療ICTは周回遅れ「ヘルスケアビジネスをリフレームする」vol.3

 


山崎博史氏 プロフィール


大阪府出身。関西大学商学部卒業。某国内製薬メーカーでMR、営業企画部、情報システム統括部、マーケテイング部を経験。その後、ベンチャー企業に転職、企業のインターネットマーケティングのコンサルティング、セミナーなどを行う。また、大学病院、クリニック、医師会などでコンサルティングを行っている。海外の投資企業への国内の医療産業に関するコンサルティングも行っている。<経歴の詳細はこちら>

twitter : @gennesaretcare

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