第9回の記事では、ブランディングを実施するにあたって避けては通れないペルソナについて解説します。多くのブランディング、もしくはマーケティングの担当者が精度の高いペルソナの設定に難しさを感じていることかと思いますので、弊社の知見も紹介しながらペルソナの設定の仕方について解説してきます。
- 目次
こんな人におすすめ
- ペルソナの解像度を上げ、事業に貢献していきたい担当者
- ペルソナを作ってみたが、効果を感じられない担当者
読んだ後に身につくこと
- より解像度の高いペルソナの作り方
- 過去に設定したペルソナの見直し方法
ペルソナとは
アラン・クーパーによって提唱されたペルソナは「ユーザーを正確に描写したもので、ユーザーが成し遂げたいことを明らかにするもの」として定義されました。つまり「平均的」なユーザーを明らかにするのではなく、ターゲットとする「誰か」について、その人物のニーズ、期待、行動を組み合わせることによって、「典型的」なユーザーを理解するために作られるものなのです。
ペルソナの定義
ペルソナを作るためにはターゲットを明らかにする必要があります。そのターゲットを「同じ属性を持つユーザーのグループ」と定義した場合、ペルソナはそうしたグループを代表する具体的な「1人の人物」を表すものだと定義することができます。名前、年齢、性別、居住地、職業、学歴、収入、家族構成といった属性はもちろんのこと、趣味や習慣、休日の過ごし方、現在の課題、将来の目標など人柄やライフスタイルにまで踏み込んだリアルな人間像を設定します。そうすることによって、カスタマージャーニーマップを作成する際にも感情移入がしやすく、顧客の視点でものごとを捉えられるようになるわけです。
ペルソナを設定する目的
ペルソナを設定することで、見込み客を具体的に描き出せるため、ブランディングやマーケティングの戦略や施策の方向性を定めやすくなります。ブランディングの担当者、マーケターや商品・サービス開発担当者も、「このペルソナならどう考えるか」と、自然にペルソナの視点に立てるようになるのです。大まかなペルソナしか把握していないと、訴求力が弱く、どの層にも響かないものになってしまう恐れもあるため、ペルソナの設定は重要です。
ペルソナを運用する際のポイントと注意点
設定したペルソナを上手く運用するには、いくつかのポイントがあります。
まず、ユーザーが本当に求めている商品やサービスを提供するためには、関与者全員でのユーザーへの認識統一が必要不可欠ということです。ペルソナを運用することで1人の人物像を共有でき、共通認識を持ちやすくなりるのです。例えば、プロジェクト内で生じた新しい企画、顧客の課題に合わせた解決策の優先順位付け、Webサイトの打ち出し内容などの検討時も、ペルソナという根幹に立ち返ることで、判断しやすくなるのです。
また、急速に変化する時代に合ったペルソナ戦略に必要なのは、ユーザーを取り巻く変化や、製品・サービスに触れる機会の変化を見越したペルソナの設定です。そのためには、常にペルソナ像もアップデートさせることが重要です。例えば、現在使っているペルソナは実は何年も前に作られたもので、今の市場にマッチしていなかったということも多くあります。そういったことが起きないよう、定期的に見直しを行い、市場や需要にマッチした施策につなげていくことが重要です。
ブランディング / マーケティングでのペルソナ設定
ここからは実際にブランディングやマーケティングで活かせつようなペルソナを設定し、運用するにはどうすれば良いのかをご紹介します。
ペルソナを作る上での2つのポイント
①顧客の解像度を深める
顧客を理解するためには、定性的および定量的な情報をもとに、顧客の態度・行動・特徴・欲求・置かれている状況や抱えている課題を明らかにしていくことが重要です。顧客を多面的に捉えるためには、顧客の目的や好みだけでなく、どのような属性の顧客がどの程度存在するのかを把握するため、数値や割合で表せる「定量データ」と、ペルソナに命を吹き込み、リアルに感じさせるため、心理や行動を表す「定性データ」のどちらもが必要なのです。
具体的には、想定する事業のターゲットとなる顧客データを集めて分析し、顧客セグメンテーションを設けます。直近半年以内のアクティブ顧客の属性や購買データ、アクセス履歴に加えて、SNSのコメントやイベント参加者のアンケートも貴重な情報源です。その上でターゲットとなるセグメントを決め、そのセグメントに属する自社の顧客および問い合わせ者を対象にしたアンケートやグループインタビューを行い、顧客の生の声を集めます。アンケートの目的はリアルなペルソナ像を探るためなので、基本的な属性情報に加えて、自由筆記欄を多く設け、満足・不満足の点などを記載してもらうといいでしょう。
②項目を作り、ペルソナを設定する
弊社は法人向けにブランディングやマーケティングの支援をおこなっていますが、そのような施策の一環としてメールを送る先は企業の担当者、つまり個人になります。したがって、法人向けに支援をしている会社(BtoB企業)であってもペルソナは「企業に属する従業員」という視点で定義する必要があります。
担当者の属性
続いて、ターゲット企業に所属する担当者の属性を明確にします。属性では、担当者の性別や年齢、所属部署、所属部署の人数、役職の有無などを具体化していきます。なお、BtoB企業では、1つの製品の導入検討に複数の担当者が関わるケースが多いため、「情報収集を担当する企画部門担当者のペルソナ」「IT部門担当者のペルソナ」というように、施策の対象となりうる担当者の種類ごとにペルソナを定義する必要があります。
定性的な情報を肉付け
これらの属性情報に対して定性的な情報を肉付けし、ペルソナとして具体化していきます。BtoCの場合、家族構成やライフスタイル、趣味といった情報が重視されますが、BtoBでは所属部署における業務内容、抱えている課題、担当業務に対する姿勢(マインド)といった、業務寄りの情報に重心を置くのがポイントとなります。場合によっては決裁のポイント、よく利用する情報収集メディアなどを含めることもあります。
氏名・顔写真
具体的なユーザー像が定義できたら、最後に氏名をつけ、顔写真を添えましょう。顔写真は必須ではありませんが、ペルソナにマッチした人物の画像を添えることで、より具体的にユーザー像をイメージできるようになります。写真は画像素材集などから使用するほか、ペルソナのイメージに近い人物イラストを使用するのも一つの手です。
ペルソナの設定にあたっては、できるだけ調査から得た事実データをもとに1人の人物像を作り上げるのがポイントです。先入観や思い込みを外して、データから構築することを意識しましょう。これらの情報をもとに、生き生きとした人物像としてストーリーを描きます。「こんな人、いるよね」と言わせるようなリアル感が大事です。
ペルソナを作る時の注意点
ペルソナを設定する際には、以下の注意点が挙げられます。
まず、大きな注意点としては、しっかりと調査分析を行い、実際にいそうなペルソナを作成することです。実在しないペルソナを作ってしまうと、実在しない人に向けた施策を実施することになり施策効果に繋がりません。ペルソナは極端にユーザー像を絞り込むため、届けたいユーザーは誰かという視点を持って高い精度で設定することが必要です。自身の推論や仮定に合理的な根拠がないと、精度が落ちる恐れがあります。
また、実施したい企画の説得材料としてありもしない都合の良いペルソナを作り上げないように気をつけなくてはなりません。「実在しそうな人物像」を設定することが重要なので、意義のあるペルソナ設定を行いましょう。
まとめ
ペルソナを設定したブランディングやマーケティングは、日々多様化する個人の消費動向への対応策として有効ですが、設定を誤れば期待するような効果が得られないケースも生じます。現実の顧客の属性や消費動向を確認し、常に見直しを行いながら、自社のブランディングやマーケティングの効果を最大化しましょう。
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【参考文献】
『手にとるようにわかる ブランディング入門』(金子大貴著、 一色俊慶著)