「KPIの設定が重要である」、「KPIを達成するためにはどうしたらいいのだろう」会社での会議や営業担当者との会話の中で、こうした言葉を耳にしたことはありませんか?第7回では、ブランディングを成功に導く鍵となる、KPIの設定について解説します。
ブランディングの取り組みが始まり、一定期間が経過した頃に、その取り組みの成果を測定することは、ブランディングの取り組みを推進していく上での指標として大いに役立ちます。しかし、KPIの設定を誤ったり、曖昧にしてしまうと方向性が定まらず、ブランドの確立が困難になる恐れもあります。ここでは、ブランディングにおける検証と改善についてもご説明します。
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KPIとは?
「KPI」とは、「Key Performance Indicator」の略称で、目標の達成度合いを定量的に計測するための指標です。このKPIを測定することで目標までの進捗を把握でき、また目標までの到達率を数値で可視化することで組織の活動を活性化できます。
どんなに良い商品やサービスでも消費者に認知されることが無いと世の中に広がりませんので、企業や自治体にとって、ブランディングは重要な戦略になることはこれまで解説してきました。しかしブランディングは、広告と比較すると別の商品と区別するための要素にもなるため、膨大な消費者調査をしない限り効果検証は難しいのが実情です。
ブランディング戦略を立案する上で正しいターゲットやメディアに商品やサービス内容が認知されていることが大切ですので、ブランディング活動においてもKPIの設定は作成は大切な関係になります。
KPI・KGI・KSFの役割
まずは、KPIと共にビジネスシーンでよく耳にするKGIについて確認し、2つの関係性を解説していきます。KPIとは上記で説明したように、目標に対しての達成度合いを数値化して、計測できるようにした指標です。そして、KGIとは「Key Goal Indicator」の略語で、最終ゴールや最終到達目標の指標となるものです。
ちなみに、KGIで掲げた目標を達成するために、重要となる成功要因のことをKSFと呼びます。KSF(Key Success Factor)は、成功させるための必要条件を示す指標で、別名CSF(Critical Success Factor/重要成功要因 )とも呼ばれています。KPIはKFSを細分化して数値化したものです。
これらの関係性を表すと、KGIは組織やチームが目指す最終目標やゴールであり、それを達成するために必要な成功要因や、根拠となる指標がKSFです。そして、最終的にKSF(成功要因 )を達成するために積み重ねていく小さな達成がKPIという位置づけになります。一般企業で表すと、企業全体の年度売上目標がKGIとなり、各部署で設定するKSF達成に向け、細分化された目標がKPIということです。
ある企業の営業部門を例にして考えてみましょう。「新規顧客の売上アップ」というKGIを設定したとすると、KSFでは新規顧客の獲得を実現するため、具体的に「認知度の向上」「訴求力の強化」などを設定します。そしてKPIでは、KSFで設定した目標を実現するために認知度の向上であれば「ブランド助成想起率」、「ブランド純粋想起率」、「NPS」、訴求力の強化であれば「問い合わせ数」、「商談数」、「成約数」と言った指標を用いて、達成度を測るという仕組みになっています。これらのKPIを業務中に追うことで、一番大きな目標(KGI)である「新規顧客の売上アップ」の達成に近づけることができます。KPIの役割は、目標までの達成度合いを明らかにすることなので、可視化して定量的に測定すれば、個人だけでなくチームの誰が見ても進捗がわかるようになります。
ブランディングの成果をKPIで検証する
では具体的に、KPIの設定ではどのようなことを行えば良いのでしょうか。
手法としては、ユーザーリサーチが主となります。こうした数値をもとに定点観測を行いながら、どういった取り組みが評価されているか、より強めるべき取り組みは何かを再考し、新たなアウター/インナー・ブランディングの取り組みを推進していきます。検証に用いる軸は、代表的なものとして以下 4 つあります。
①ブランドの認知度を測定する:ブランド助成想起率/ブランド純粋想起率
ブランドの認知度測定には主に、2つの指標があります。ユーザーインタビューを行い算出します。
◉ ブランド助成想起率
《算出方法》
・ 競合ブランドと並べ、見聞きしたことがある人の割合
《質問例》
・このブランドの中で、知っているブランドをすべて選択してください。
※競合ブランドとともに、自社のブランドを選択肢として提示
◉ ブランド純粋想起率
《算出方法》
・ 商品カテゴリーを提示したとき、自社のブランドが挙がった割合
《質問例》
・あなたが知っているエナジードリンク(あなたの提供するブランドカテゴリー)のブランド名を教えてください。
※自由回答
これらの質問をアンケート形式で、ターゲットとする想定ユーザーに対して行うことで、市場の中でどれだけ認知度があるのかを把握していくものです。現状、第何位に位置しているのかの把握に加え、回答者の属性(性別、年齢など)別に分析などをすることで、どういった属性への認知が足りていないかなどの把握につながります。
②ブランドの独自性を測定する:ブランド第一想起率/ブランド支配想起率/ブランド連想
ブランドの認知度測定には主に、3つの指標があります。
◉ ブランド第一想起率
《算出方法》
カテゴリーを提示し、一番に自社が浮かんだ人の割合
《質問例》
あなたが知っているエナジードリンク(あなたの提供するブランドカテゴリー)で最初に浮かんだブランドを教えてください。※自由回答
◉ ブランド支配想起率
《算出方法》
カテゴリーを提示し、自社しか思い浮かばない人の割合
《質問例》
あなたが知っているエナジードリンク(あなたの提供するブランドカテゴリー)でブランド名をすべて教えてください。※自由回答
◉ ブランド連想
《算出方法》
ブランドに対して想起されるイメージが、ブランディングで抱いてもらいたいイメージと合致しているかを検証する
《質問例》
◯◯(あなたが提供するブランド名)で想起するイメージと特徴について教えてください。また、その理由を教えてください。
※自由回答
ブランド第一想起率、支配想起率については、ブランドの認知度の調査と同様、ターゲット層に広くアンケートを行い、どれだけカテゴリー内で独自の存在になっているかを知る指標となります。ブランド連想については、主に自社の製品に触れたことのあるユーザーを対象に広くアンケートを取ります。自社が狙うブランドイメージとどれだけ一致している要素があるか、乖離している要素があるかを定期的に数値測定し、改善点を抽出していきます。コアなファンから一度きりの付き合いとなってしまっているユーザーまで幅広く対象とすることで、どの層に正しく伝わっていないかなどを把握し、課題を抽出することもできます。
③ブランドの満足度を測定する:NPS
ブランドの満足度(ブランドロイヤリティ)は NPS(ネット・プロモーター・スコア)で測定します。企業、商品、サービス、ブランド等を親しい友人や同僚にすすめる可能性を 0 〜 10 点の点数でつけてもらい、推奨者の割合から批判者の割合を引いたものがスコアとなります。ちなみに推奨者とは 9 点と 10 点をつけた人、批判者とは 0〜 6点をつけた人です(7 点と 8 点をつけた人は中立者と呼ばれます)。100 人中 35 人が推奨者で 14 人が批判者であれば、35%−14%となり、NPS は 21 ポイントとなります。
ブランドの課題を抽出する:ユーザーインタビュー
ここまで紹介した検証方法ではユーザーインタビューを実施しデータを集めるものもありますが、上記とは別の視点からブランドの課題を抽出するための方法としてもユーザーインタビューを実施することがあります。認知度、独自性、満足度と異なり、定量的な数値でブランド自体を評価することは難しいですが、より具体的なブランドの課題をユーザーインタビューを用いて把握することができます。方法としては、②で紹介した顧客調査と同様で、現状のブランドイメージや期待、課題などをインタビューにより抽出していきます。インタビュー形式は、「なぜ、そう思うのか?」等の理由を深く聞くことができるため、どのような取り組みがどのような認知のされ方をしたかなどをより明確に把握することが可能です。認知度、独自性、満足度等の定量的な現状把握とうまく組み合わせ、ブランディングの取り組みの改善を重ね、独自のブランド確立を目指しましょう。
以上、4つの検証方法について解説してきました。もちろんすべてを実施することも可能ですが、コストや手間がかかってしまいます。そのため、現状のブランディングにおいての課題がどこにあるかを考え、特に重要となるものを優先して行いましょう。たとえば、新ブランドとして認知度向上を最大の狙いとして取り組んでいるのであれば、認知度の測定は必須でしょう。競合との差別化の推進が最大の狙いであれば、現状のブランドの独自性を定期的に測定していくことで、より良い PDCA を回していくことにつながります。
いますぐ実践できる、ブランディングの検証と改善
③で紹介したブランディングの効果を測定する上で有用な指標であるNPS(ネット・プロモーター・スコア)。実は、ブランディングの検証と改善において着手しやすい手法と言われており、アップルやナイキなど欧米の売り上げ上位企業(フォーチュン500)のうち3分の1以上が活用しているといわれています。そんな、多くの企業がブランドを評価する際に用いられているNPSですが、大伸社コミュニケーションデザインでも、顧客満足を高めるために、CX(カスタマー・エクスペリエンス)プロジェクトの一環として導入しています。
弊社ではCXを改善していくためにまずは、「自社の現状を理解すること」が大事だと考えています。そのために具体的には、社内資料・データの確認や、顧客アンケートの実施、インタビューでの定性リサーチ、現状分析のためのワークショップを行い、CX現状分析レポートやカスタマージャーニーマップにまとめています。中でも、NPSにあたる顧客アンケート調査は、弊社にとって重要な顧客セグメントを特定し、顧客ライフサイクル全体で顧客の行動や考え・気持ちを深く理解することに役立ちます。このように、顧客が期待していることと自社の現状とのギャップを明らかにすることが、CXビジョンの策定、CXマネジメント施策の実行への土台づくりとなるのです。
ブランディングに終わりはない
ブランディング・プロジェクトとしてブランド定義を終え、社内外に発信を行ってからが、本当のブランディングのスタートです。ブランドは放っておけば、どんどん劣化していきます。ブランドの定義から外れた取り組みになっていないか、常にチェックすることが必要です。時代の変化と共に、顧客が何を期待しているかを見失わないようにし、顧客の期待に見合った(あるいは期待を超える)新しい体験を提供できているかを丁寧に振り返っているブランドこそ、これからも支持され続けるブランドと言えます。
【参考文献】
『手にとるようにわかる ブランディング入門』(金子大貴著、 一色俊慶著)