パンフレット制作事例 / 考えよう みんなのパブリックトイレ〜性の多様性に配慮して〜
センシティブなテーマを、知見者の参画と編集・デザインの工夫で
ポジティブかつやわらかな印象を与えるパンフレットに。
国内におけるトイレ・ユニットバスなど衛生陶器・住宅設備機器のトップメーカーTOTO株式会社。こちらのユニバーサルデザイン部門では、高齢者や障がい者など、より多くの方々にとって使いやすいトイレとはどうあるべきか?ということをお客様と検証しながら空間や製品づくりに取り組んでいらっしゃいます。今回は性的マイノリティの方々にも配慮したトイレづくりについてまとめたパンフレットを制作することとなり、大伸社コミュニケーションデザイン(以下、DCD)にご依頼をいただきました。制作を担当されたUD・プレゼンテーション推進部の冨岡様と佐藤様、販売統括本部の安田様に制作に至るまでの背景や、制作段階で留意されたことなどを伺いました。
「性的マイノリティの方々にも使いやすいトイレとは?」
市場からの問い合わせが増え、取り組みをスタートすることに。
私ども建築の専門家向けの提案部門では「ユニバーサルデザイン」を軸に、これまで蓄積された知見を活かしてトイレを設計・施工する際の悩みや要望に合わせて「このような製品が良い」「このぐらいの寸法が必要」といったソフト面の空間提案や情報提供も行なっています。
今回このようなパンフレットを制作することになった背景としては、2015年、渋谷区と世田谷区で「同性パートナーシップ証明制度」が始まり、メディアが「性的マイノリティ」「LGBT」というものを取り上げ始めたことがきっかけでした。私どもにも「LGBT の方がトイレをどのように使っていらっしゃるのか?」「どんな要望があるのか?」といった問い合わせをいただくようになり、当事者や当事者支援団体に対し調査・研究を行なうようになりました。それから、セミナーなどを通してお客様に情報をお伝えしていたのですが、どうしても伝えられる人数が限られてしまうので、より認知を進めていかなくてはという思いから、パンフレットを制作することとなりました。(冨岡様)
これまでの実績や、
LGBTに対する知見の深さからDCDに依頼しました。
パンフレットの制作にあたっては複数の会社から提案をいただきましたが、これまでのDCDさんの制作物の実績と、LGBTに対する知見の深さ、この2軸が我々のニーズに合ったかなという感じです。すでにDCDさんがLGBT(性的マイノリティ)に関するセミナーを開催し、知見のある方と繋がりと持っておられたので、その方に監修に入ってもらえるという提案は、大変魅力的でした。
また、このテーマはできるだけ柔らかく扱いたいという思いがあったので、DCDさんが医療関係のツール制作実績が多く、色使いやイラストのテイストで、柔らかな印象のものを作ることに慣れているな、と思ったことも採用したポイントです。(安田様)
まだ“正解のない課題”だからこそ、
監修の意見が大いに役立ちました。
制作中は、このパンフレットを見る人に対して「誤解を与えないように」とか「不快な思いをさせてしまわないように」という思いや、まだ正解のない課題に対し、メーカーとして答えを示していかなくてはならないということで、悩むことも多かったです。ですから、DCDさんに紹介していただいた監修の方のご協力や、さまざまなご提案をしていただいたことは大変助かりました。
表紙のタイトルについても「“考えよう”をつけたらどうだ?」とアイデアをいただいたことで「まだ正解は無いけれど、これから世の中のみんなで考えていかないといけないテーマだよね」というメッセージを伝えられたことが、大変良かったと思っています。(佐藤様)
TOTOからの情報とメッセージを
多くの方に届けられました。
パンフレットができてから社内の営業担当が自分のお客様にお渡しできるようになり、目的であった認知を進めることはできていると思います。このサイズ感とボリューム感も良いのか、お配りしたら皆さんその場ですぐに読んでくれるんですよ。そして、色々質問していただけるようにもなりました。
また、意識喚起という目的でお渡ししたものが回り回って「これを見ました、ちょっと話を聞かせてください」とお問い合わせにつながったこともあるんですよ。
また、LGBT の支援団体様が全国にあって、さまざまなセミナーや講習会を開かれているんですが、そういう場でもこのパンフレットを配布したいとご希望いただくことがあって、本当に多くの方に手に取っていただいています。(冨岡様)
多くの反応とご意見をいただき、
手応えを感じています。
セミナーを通してお客様に情報をお伝えしていた頃は、伝えられる人数が限られてしまうこともあり大きな反響は無かったので、いろんな反応や意見をいただけるのは、嬉しいことですし、手応えに感じています。
これからもっと、みんなが使いやすいトイレが増えていって、良い点や課題が見えてくると思うので、どんどんブラッシュアップしていけたらなと思います。
いずれ何十年か後には、「性的マイノリティ」とか、「LGBT」とかいう言葉をあえて使う必要がない時代がやってくるんだろうなと思っていて、そこにいきつくまで、議論を重ねていきたいと思っています。(佐藤様)
世間の反応はさまざま。しかし、反応が増えたことは喜ぶべきこと!
ここをスタートだと思い、“より良い答え”を見つけていきたい。
現在、私どもの取り組みやこのパンフレットに対しては、賛否両論さまざまな意見をいただいています。「トイレが使いやすくなる、ありがとう」という人もいれば、「自分達はそういうトイレしか使えないの?」という批判をいただくこともあります。ですが、TOTOが本当にやっていきたいことは「より多くの選択肢を提供していきたい」ということ。ですから、どのようなトイレが正解か、まずはお客様の反応や意見にしっかりと耳を傾けていき、あるべき姿を見つけていければいいなと思っています。さらに、パンフレットも今回のものが完成形ではなく、いただいたご意見を参考にして、もっとブラッシュアップしていきたいと思っています。(佐藤様)
今後もDCDに蓄積される
知見やノウハウを期待しています。
今後ブラッシュアップする際には、新たにゼロから作るより、今のパンフレットをさらに改訂する方が我々としても作りやすいですよね。今後、DCDさんに蓄積されていくLGBT(性的マイノリティ)に関する知見にも期待しています。今回監修してくださった方や、その周りの方々の感想も聞ければ。いろんな意見の棚卸しをして、また今後に活かしていきたいですね。(安田様)
取材にご協力いただいた TOTO株式会社様
TOTO株式会社は、「水まわりを中心とした、豊かで快適な生活文化の創造」を企業理念に、トイレ、バスルーム、システムキッチン、洗面化粧台など、住宅からあらゆる建築まで品揃えする、水まわり住宅総合機器メーカーです。
※2018年11月に取材させていただきました。